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2026/05/13 18:00

<フジロック’26出演>アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ、カナダ最注目バンドのブッキング戦略に迫る

  ザ・フェルドマン・エージェンシー副社長のスティーヴン・ヒンメルファーブは、ケベック発の水玉模様の“マスロック宇宙人”デュオ、アンジーヌ・ド・ポワトリーヌのブッキング・エージェントを務めている。現在、彼らは音楽業界で最もチケット入手困難な存在の一つとなっているが、どのように戦略を構築しているのだろうか。

 今、ロック界で最も熱いバンドは、これまでケベック州の外でほとんど演奏したことがなかった。

 KEXPのパフォーマンス映像が公開されてからわずか2か月で、アンジーヌ・ド・ポワトリーヌは驚異的なスピードで音楽シーンを席巻している。

 白黒の水玉衣装と超絶技巧の微分音インストゥルメンタル・ロックがネット上で拡散されると、それまで地元以外ではほぼ無名だったバンドの状況は一変した。パフォーマンス映像は数百万回再生を記録し、デイヴ・グロールらのロックスターたちも絶賛。さらに米ニューヨーク・タイムズのような大手メディアまで、この現象の正体を探ろうとしている。

 しかもこれは単なるネット現象ではない。最新作『Vol. II』の需要に応えるためレコード工場は増産を行い、ライブは即完売。転売チケットは500ドルを超える価格で取引されている。現在のライブ・スケジュールは、カナダ、アメリカ、ヨーロッパ各地の公演で埋め尽くされている。

 では、急激にブレイクしたバンドをどう戦略的に扱うのか。その役目を担うのが、カナダ最大級のブッキング・エージェントであるザ・フェルドマン・エージェンシー副社長、スティーヴン・ヒンメルファーブだ。彼はごく最近アンジーヌ・ド・ポワトリーヌと仕事を始めたばかりだが、すでに世界中のフェスティバルから大型オファーが舞い込み、大物アーティストたちからもツアー帯同の依頼を受けている。

 カナダ・モントリオールで行われたClub Sodaでのリリース公演と、より小規模なQuai des Brumesでのシークレット・ライブを終えた直後の電話取材で、「すべてが本当に一瞬だった」とヒンメルファーブは語る。「ここまで急に、とんでもないことになるなんて誰も予想していなかったと思う」

 しかし、ヒンメルファーブにとってこうした急成長は珍しいものではない。オーヴィル・ペックをトロントの小さなモナーク・タバーンから半年でカーダシアン一家の取り巻きへと押し上げた人物であり、シャナイア・トゥエインの記録的なカナダ・ツアーも手掛けてきた。ヒンメルファーブは、強烈な個性を持つ“型破り”なアーティストをメインストリームへ導く戦略家として独自の地位を築いている。

 彼の担当アーティストは多彩で、PUP、バッドバッドノットグッド、グッド・キッド、ロード・ヒューロン、マウント・ジョイ、スウェーデンのサイケデリック集団ゴート、さらにアワ・レディ・ピースや(ドラマ『Heated Rivalry』への楽曲起用で再生数を伸ばしている)ファイストといったベテラン勢まで含まれる。しかし彼の仕事には一貫した哲学がある。どれほどニッチで奇妙に見えるバンドでも、大舞台へ押し上げるための計画が必ずあるのだ。

 今回のビルボード・カナダによる「Executive of the Week」では、ヒンメルファーブがアンジーヌ・ド・ポワトリーヌの戦略、アーティストにとって最も重要な資質としての“ビジョン”、オンライン上の再生数やフォロワー数が必ずしも現実を反映しない理由、そして音楽業界の“チケット販売システム全体”が変わるべきだと考える理由について語った。


――アンジーヌ・ド・ポワトリーヌはここ数か月で急激なブレイクを果たしました。正式にバンドと仕事を始めたのはいつ頃だったのでしょうか?

 ゴートというバンドと15年間仕事をしていて、彼らのカナダ横断ツアーを組んでいた時に、サポート・アクトの案を考えていた。すると【モントリオール国際ジャズ・フェスティバル】のプロモーターから「すごくクールだと思うバンドがいるんだけど、彼らもマスクを被ってるんだ」って連絡が来た。僕は「それはダサいな、やりたくない」って言った。でも彼は「完璧にハマるから。お願いだから聞いてみてくれ」って。そこでその話をバンド側に投げたら、5日くらいで返事が来て、OKがでたんだ。

 それで【モントリオール国際ジャズ・フェスティバル】のプロモーターに再び話したら、「もう遅い。彼ら、自分たちの公演を発表したら数時間で完売したんだ。丁重にオファーを取り下げて、自分たちでヘッドライン公演をすることにした」って返ってきた。「なんてことだ」と思ったよ。それですぐ彼らに連絡して、その場で契約したんだ。





――バンドの本格的に成功し始め、大きな展開を狙えるだけの需要があると実感したのはいつでしたか?

 まさにKEXPの映像がきっかけだった。すごく楽しくて、すごくクリエイティブで、あらゆる条件が完璧に噛み合った。

 いろんな人たちの間でどんどん共有されていった。あらゆるジャンルのファンが“これは最高だ”って言っていた。ジャズ・フェス、フォーク・フェス、パンク・ロック・フェス――みんな飛びついたんだ。

 契約した瞬間からオファーが来ていた。最初から“これは絶対ブッキングする”ってフェスもあった。

 最初はいくつかのフェスをかなり安い金額で受けた。彼らもリスクを取って、面白いラインナップを作ろうとしていたからね。でもその数週間後には、文字通りネット現象になっていた。こんなのは滅多にないよ。

――その成功は、チケットやレコードの売上といった具体的な結果にどう結びついていったのでしょうか?

 今の時代、ネットや数字だけでは、本当にチケット売上に結びつくか分からない。何百万人フォロワーがいても、ドレイクみたいな会場をソールドアウトできないバンドもいる。本当のファンベースとの相関なんてない。でも今回はそういう感覚ではなかった。だから僕はモッド・クラブで早くやるべきだと強く主張した。本物かどうか確かめたかったから。

 他のエージェントや各国のチームとも調整しながら、“もし予想通り一瞬で売り切れたら、それが世界全体の指標になる。200人規模の会場から500人規模に上げた方がいいかもしれない”って伝えていた。

 結果、モッド・クラブは即完だった。そこからはもうゲーム開始って感じで、今は需要に追いつくことが課題になっている。

――今後1年、アンジーヌ・ド・ポワトリーヌの展開はどのようなものになりそうですか?この急激な人気上昇の中で、どのように戦略を立てているのでしょうか?

 これは少し様子見なんだ。彼らの前には、ものすごく過酷で、でも願わくば報われる1年が待っている。そして次のステップに進む前に、その一部がどう展開するかを見届ける必要がある。現時点ではまだ白紙の状態だよ。

 かなり大物のアーティストたちから、“自分たちのツアーに参加してほしい”“一緒に公演してほしい”という連絡も来ている。

 でも彼ら自身、何日連続で公演できるのかさえまだ分かっていない。これまでそんな試練を経験したことがないからね。ショーを構築してスケールアップさせながら、自分たちがどこへ行きたいのかも考えている。本当に今はすべてが開かれている状態だ。

――まるで一夜にして成功したように見えますが、これほどの急成長は、他の所属アーティストでも経験したことがありますか?

 あるけれど、でもここまで速くてクレイジーなのは初めてだね。

 オーヴィル・ペックの時も超高速だった。ついさっきまでホースシュー・タバーンで一緒に過ごしていたのに、6か月後にはカーダシアン一家と一緒にいるんだから。あれもすごかった。でもチケット売上の勢いという意味では、今回はオーヴィル以上に速い。

 オーヴィルは複数の層に響いていた。パンク・ロックやインディー・ロックの文脈がありつつ、同時にカントリーの文脈もあった。PUPもそう。【ワープド・ツアー】に出ながら、ピッチフォークでも評価されていた。そうやって異なるファンベースを横断できると、一気に勢いが生まれるんだ。

 アンジーヌの場合は、ジャムバンド界隈、パンク・ロック・シーン、演奏技術好きの層――いろんな方面に刺さっている。それが竜巻みたいな効果を生んでいるんだ。





――ザ・フェルドマン・エージェンシーはカナダ最大級のブッキング会社ですが、インディー系アクトを大きくブレイクさせてきたことが共通点でもあります。そうした姿勢は、自身の哲学にもつながっていますか?

 自分はインディー・ロックの人みたいに分類されがちだけど、そう思っていない。ただ、自分がその音楽で育ったってだけなんだ。

 少し型破りなアーティストを扱う才能はあると思う。良い音楽だけを武器にメインストリームへ行けるようなアーティストだね。自分が本当に好きでもないのに、“売れそうだから”“金になりそうだから”って理由だけでメジャー・レーベルのアーティストと契約するような人間だとは、絶対に思われたくない。自分の仕事が大好きだ。だって、一緒に仕事してるのは全部、自分の大好きなアーティストだから。大げさなきれいごとみたいに聞こえるのは分かってる。でも本当にそうなんだよ。実際、自分が大好きなバンドたちと仕事をしているんだ。

 (アンジーヌ・ド・ポワトリーヌに関しては、)“君が関わっていても驚かない”って言われることがすごく多かった。それって大きな褒め言葉だと思う。このバンドには、本当に独特な形で人々が集まってきている。

――音楽の印税収入よりもライブ収益によって多くの収入を得るバンドが増える中で、ブッキング・エージェントの役割は年々重要性を増し、かつてはレーベルや業界の他部門が担っていたような仕事まで引き受けるようになっています。あなたの仕事において、A&Rはどれほど重要な要素なのでしょうか?

 A&Rは、どのエージェントにとっても仕事の大きな要素。特に自分の場合は、そういう立ち位置を築いてきたからなおさらだ。

 今は統計データが全部公開されているから、“このバンドが熱いよ”って言っても、数字を見たら“本当にそう?”となることがある。

 でもアンジーヌは、そのルールを壊した存在だった。数字自体はそこまで大きくなかったから。Instagramは急激に伸びたけど、それ以前の段階から“これは本当に面白い、自分はこれに賭けたい”って感覚があったんだ。最初から自分に問いかけているのは、“自分はこれが好きか?これはどんな場所で鳴る音楽なんだろう?この先どこまで行けると想像できるか?”ってことなんだ。

――まだキャリア初期段階のアーティストに関わる時、その成功を思い描く助けになるものは何ですか?「このアーティストはいける」と直感するのは、どんな要素なのでしょうか?

 アーティスト自身がビジョンを持っているかどうかだね。そして、それを僕に説明できるか。PUP、オーヴィル・ペック、グッド・キッド、アンジーヌ。みんな自分たちがどこへ向かいたいのか分かっていた。だからこそ、自分も彼らのキャリアを動かす歯車の一つとして関わることができるんだ。彼らはすでに自分たちなりにしっかり考え抜いていて、しかも勢いも生まれ始めている、そういうことが伝わってくる。

 時には、実際に会うことで確信することもある。オーヴィル・ペックはまさにそうだった。初期の会話は本当に目を開かされるものだった。彼はまだ数回しかライブをしていなかったのに、すでにビジョンを持っていた。ビヨンセがカウボーイファッションをやる未来まで見えていたんだ。カントリー音楽が、それまで届いていなかった都会的な領域に入っていくことを理解していて、自分もそこに行こうとしていたんだ。




――カナダのライブ音楽シーンでは、ハミルトンのTDコロシアムやオタワのHistoryのような新会場が大型ツアーの誘致を進めるなど、セカンダリー・マーケットが拡大しています。こうした市場で公演できることは、より多くの機会を生み出していますか?

 セカンダリー市場やサード・マーケットについては、本当にアーティスト次第だと思う。

 時間がなかったり、そもそもそういう場所ではやりたくないアーティストもいる。一方で、そうした市場を本気で育てたいと思っているアーティストもいる。

 例えばフューチャー・アイランズは、“とにかく新しくて面白い場所で演奏したい”っていうバンドだった。レッドディアでライブをやったんだけど、今でも彼らに会うたびに、“あの公演、本当に最高だったよな”って冗談みたいに話すんだ。

 ロード・ヒューロンはセント・ジョンズまで飛んで行ったし、それが彼らのキャリアのハイライトの一つになった。シャナイアはムース・ジョーでも公演をした。人口規模で言えば、たぶん彼女がこれまで演奏した中で最も小さい市場だったと思う。でも、そういう場所にも行くっていう方針があったんだ。自分たちは常に、カナダという国の地理と格闘している。こんなに広大な土地で、どうやって創造的なことを実現するのかと。

――カナダでアーティストをブッキングする際、最大の課題は何でしょうか?

 アンジーヌみたいなケースだと、まるでRiskっていう陣取りゲームをやってるみたいな感覚だよ。領土を奪い合っていて、優先事項はカナダ制覇じゃなく世界制覇なんだ。

 より注目度の低いアーティストの場合は、5作目、6作目の作品を出している段階で、どう創造的なことをするかが課題になる。今はバイラルになるのが以前より難しいからね。どうやって工夫して、次のバイラルの瞬間までキャリアを持続させるかを考えなければならない。

 アーティストって、時々レストランみたいに扱われる。常に新しくて話題の店が注目される。でも、昔からある良い定番の店はどうなる?そういうものこそ本当は魅力的なのに、他の人たちは置いていかれてしまうことがある。

 だから、メニューをどう変えるか、どう刺激を加えて魅力を保つかが大事なんだよ。

――業界の中で、変わってほしいと思うことはありますか?

 チケット販売システム全体だね。アンジーヌの件は、本当にいろいろ考えさせられた。僕自身、答えを持っているわけじゃない。でも、みんなが責めている相手だけを責めたいとも思わない。問題なのはボットだよ。ボットがチケットを買ってしまっている。ファンにもっとちゃんとアクセスを提供できるいい方法が必要だ。

 昔みたいに、(トロントのレコード店)Rotate This!へ行って紙チケットを買う時代が恋しい。でも、もうあのやり方には戻れない。実際アンジーヌでも検討はしたんだけど、すごく手間がかかるんだ。だからみんな、もうやらないんだよ。

 チケット販売、サービス料、転売など、全部を抜本的に見直す必要がある。解決策は持っていないけど、大きな変革が必要なのは間違いない。

――アンジーヌ・ド・ポワトリーヌでは、どのように対策していますか?モッド・クラブ公演では転売価格が500ドル以上になっています。

 まだ対策はできていない。というのも、最初の一連の公演でこういう状況が一気に起きたのが、ほんの数週間前だったからね。今は次の公演群に向けて、どう対応するべきかアイデアを出し合っているところなんだ。

 とはいえ、それでも簡単じゃない。チケット枚数を制限したり、購入者確認をしたりはできる。でも今回は本当に特殊なケースなんだよ。彼ら自身も、まだ画期的な何かを実行できるだけの体制が完全に整っているわけではないと思う。もちろん、そのうちやるかもしれないし、彼らならやりかねないとも思っている。でも、実現するには相当な労力が必要なんだ。

 もし現実的に可能なら、レコード店で紙チケットを販売するみたいな方法をやっても驚かないでほしいね。

――多彩なインディー・アーティストが並ぶ中で、シャナイア・トゥエインはあなたの担当アーティストの中でも誰もが知る特別な存在です。彼女とはどのような戦略で仕事をしていて、それは他のアーティストの場合とどう違うのでしょうか?

 彼女はここでは別格だよ。ツアー・ビジネスの世界では、“Queen stays Queen(女王はいつまでも女王)”ってよく冗談交じりに言っていたんだ。彼女と仕事をするのは本当に楽しいよ。

 僕たちは、カナダで彼女のために大きくてインパクトのある瞬間を作ろうとしてきた。さまざまな大規模な見せ方や演出も用意していた。それが目標だったんだ。ニューファンドランドでは、1公演あたりのチケット販売枚数の記録を更新した。さらに、カナダ横断ツアーとしても史上最多のチケットを売った。

 女王は他の誰とも違う次元にいる存在だけど、結局は他のアーティストと同じように、ビジョンに行き着くんだ。彼女は自分が何を求めているのかを完全に理解している。本当に天才だよ。

By: Richard Trapunski  / 2026年4月8日 Billboard Canada掲載

◎公演情報
【FUJI ROCK FESTIVAL '26】
期間:2026年7月24日(金)、25日(土)、26日(日)
会場:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※アンジーヌ・ド・ポワトリーヌの出演は26日(日)となります。
INFO:FUJI ROCK FESTIVAL
https://www.fujirockfestival.com/